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札幌高等裁判所 昭和47年(う)97号 判決 1972年7月20日

主文

被告人冨樫昭二郎、同飛彈輝昭、同矢後義夫に対する原判決および被告人久保田金一に対する原判決をいずれも破棄する。

被告人冨樫昭二郎、同久保田金一をそれぞれ懲役拾月に、被告人飛彈輝昭、同矢後義夫をそれぞれ懲役八月に処する。

右被告人らよりそれぞれ八百万円を追徴する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人冨樫昭二郎については弁護人山根喬提出の、被告人飛彈輝昭については弁護人野口一、同横幕正次郎各提出の、被告人矢後義夫、同久保田金一については弁護人野口一提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、いずれもここにこれを引用し、これに対しつぎのように判断する。

論旨は、いずれも、原判決の量刑は、被告人らにそれぞれ実刑を科し、かつ、三三、八二四、七一二円という高額の追徴を科した点において重きにすぎ、不当である、というのである。

よつて審按するのに、一件記録ならびに当審事実調の結果にあらわれた本件犯行の動機、罪質、規模、態様、ならびに被告人らの年令、性行、境遇、経歴、犯行後の情状等に徴すれば、被告人らの刑責は極めて重大である、といわなければならない。すなわち、被告人冨樫、同飛彈、同矢後に対する原判決が説示しているとおり、本件各犯行は、単に無許可で中型さけ、ます流し網漁業を営んだというに止まらず、わが国とソヴイエト社会主義共和国連邦との間の条約によつて禁止され、かつ、わが国内法上操業区域に指定されていない海域においてこれをなしたもので、ことに本件被告人四名が他の約二〇名の者と共謀し動力漁船第三二住吉丸を利用して行なつた密漁は、相当に大きな漁船を用いてした計画的かつ大規模な犯行で、採捕したさけ・ますも約五万尾にのぼるほどであつて、漁業資源の繁殖保護、漁業調整を阻害するのみか国際信義にももとる極めて悪質な事犯といわねばならない。のみならず、被告人らはいずれも本件密漁を計画しこれを実行に移した主犯であり、犯跡の隠ぺい工作を積極的に行なうなど、犯行後の情状もよろしくない。しかも、被告人飛彈を除くその余の被告人らは、いずれもなんらかの罪で処罰された経歴を有し、ことに被告人久保田の如きは前後一五回にわたつて処罰された前歴を有している。これらの諸事情を総合すると、本件同種の事案については刑の執行を猶予される裁判例が多いこと、短期自由刑には幣害が伴なうこと、被告人らが、あるいは親の代から続けていた海産商をやめざるをえなくなるなど既に相当の社会的制裁を受け、あるいはそれなりの反省をして再びかかる行為に出ることのないよう決意し、あるいは肺結核を病んで長期の拘束に堪え難い状況にあること等、弁護人ら指摘の各被告人のため酌むべき有利な情状一切を十分斟酌し、かつ当審事実調の結果を考慮に入れても、被告人冨樫、同久保田を各懲役一〇月に、被告人飛彈、同矢後を各懲役八月に処した原判決の量刑は、まことにやむをえないものであつて、これが重きに失して不当であるとは認められない。

つぎに、追徴金の額について検討するのに、原判決は被告人らの第三二住吉丸による密漁の漁獲物の価格を三三、八二四、七一二円と認定し、右価格に相当する金額を被告人四名からそれぞれ追徴する旨言い渡しているところ、まず、横幕弁護人は、右金額は被告人冨樫が協和水産株式会社に転売した価格であり、その以前に被告人らが被告人冨樫に売却した価格は二、八三〇万円であるから、右二、八三〇万円をもつて漁獲物の価額と認定すべき旨主張する。しかしながら、被告人飛彈の検察官に対する昭和四六年七月一五日付供述調書によれば、被告人ら四名の共同所有にかかる本件漁獲物を被告人冨樫に売却した価格は、所論のとおり二、八三〇万円であるが、その価格算定は厳密な方法をとらず概算的に決定されており、その後被告人冨樫が前記の会社に転売したときの価格三三、八二四、七一二円の方がより正確なものであることが明らかであるから、右後者の価格をもつて本件漁獲物の価額と認定すべきものである。また、野口弁護人は、追徴額は被告人らが取得した実質的利益の額を越えるべきではないとし、本件漁獲物の採捕のため支出した費用を追徴額から控除すべきであるかの如く主張するが、漁獲物を没収する場合に対比して考えればかかる費用を控除すべきいわれがないことは明らかである。しかしながら、原判決のように本件漁獲物の価格に相当する金額の全額をそれぞれ被告人らから追徴する旨言い渡した場合には、右被告人らのいずれかが右追徴金の全部または一部を納付したときは、納付ずみの部分につき重ねて執行することができないから、いきおい資力のある者が納付義務を履行し、他の者がこれを免れる結果となつて、公平を欠くおそれがないとはいえないし、漁業法一四〇条による追徴は、任意的なものであるから、被告人らが本件密漁のため相当多額の支出をしている点も斟酌すると、本件の場合被告人らに対する各追徴額は、漁獲物の価額の四分の一弱の八〇〇万円ずつとするのが相当である。それゆえ、原判決は、被告人らに対しそれぞれ三三、八二四、七一二円の追徴を科した点において、重きにすぎるというべきである。論旨はこの点において理由があり、原判決はいずれも破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法三九七条、三八一条により被告人らに対する各原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書に則り、当裁判所において直ちにつぎのとおり自判する。

原判決が適法に確定した、被告人富樫については、被告人冨樫、同飛彈、同矢後に対する原判決中判示第一、第二の、被告人飛彈、同矢後については同判決中判示第一の、被告人久保田については同被告人に対する原判決判示の事実に法律を適用すると、被告人らの右各所為は、いずれも、漁業法一三八条四号、五二条一項、漁業法第五二条第一項の指定漁業を定める政令一項一三号、刑法六〇条に該当するから、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人冨樫の原判示第一、第二の所為は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い原判示第一の罪の刑に法定の加重をし、被告人久保田には原判決判示の前科があるから同法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、以上の各刑期範囲内において被告人冨樫、同久保田をそれぞれ懲役一〇月に、被告人飛彈、同矢後をそれぞれ懲役八月に処し、被告人らの共同所有にかかる被告人冨樫、同飛彈、同矢後に対する原判決判示第一、被告人久保田に対する原判決判示の漁獲物は、すでに処分されていてこれを没収することができないから、漁業法一四〇条ただし書を適用して、被告人らからその相当価額内の八〇〇万円ずつをそれぞれ追徴することとして、主文のとおり判決する。

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